Winter Time34(ラスト)

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 西麻布にある割烹料理の店、『麻布住吉』。
 昔から知っている料亭から暖簾分けした形のその店は、割烹とはいえ、店内はテーブルとカウンター席なので、料亭と比べれば気軽に入れる雰囲気だ。
 味は申し分がなく、口コミで広がり、工藤のような常連以外、今では予約なしで入るのは至難の業だ。
「仕事が面白くなってきただと? 半人前が何をぬかしてる」
「半人前でも面白いものは面白いんです!」
 昨夜は、良太がもうどうにでもして状態に縋ってきたのをいいことに、つい、まるで初めてコトに及んだ青臭いガキのように羽目を外してしまったことを、工藤は少しばかり反省していた。
 お陰で朝寝どころか昼近くまで寝てしまい、工藤はヘロヘロになっている良太を叩き起こしてバスルームに連れ込み、慌てて身支度をした。
 というのも、ハウスキーパー協会から派遣された担当と、前々から書類にチェックしてサインをしてくれと言っていたその上司の怖いオバサンが午後から来ることになっていたからだ。
「何で五枚もあるんだ」
 文句を言いながら書類にサインをすると、工藤は良太を連れて部屋を出た。
 昨夜は会社に車を置いたままだったため、二人はタクシーで乃木坂のオフィスに向い、それから良太はスポンサーのところへ出向き、工藤はMBCで一つ仕事をしてから、夕方この店で落ち合った、というわけだ。
 今日は雪こそ降らないものの、一日中真冬の寒さが東京を覆っていた。
 テーブルについてから、クリスマスプレゼントだなどとは言わないものの、家族四人、北海道温泉旅行三泊四日のクーポン券を工藤からもらった良太は、ひどく感激した。
「わ、ありがとうございますぅ! 母親喜びます!」
 そこまではよかったのだ。
 良太が酒の勢いに後押しされてプロデュースの仕事を続けていきたいと話した途端、すぐに口論になった。
 隅のテーブルだったのがまだ幸いである。
「藤堂さんは、ちゃんと俺の仕事認めてくれて、こんなのくれましたから」
 良太は胸ポケットから一本のペンを取り出し、工藤に見せびらかす。
「何だ、それは!」
 思わずペンを取り上げると、工藤は苦々しい顔でそれを眺める。
 20xx.12.24/PLUG-IN、と刻まれたボールペンのホールマークはダンヒルのものだし、おいそれと誰にでもプレゼントできる代物ではないだろう。
「何でお前に、藤堂がこんなものをくれるんだ!?」
 唸るように工藤が問いただす。
「夕べのパーティで、藤堂さん、皆にプレゼントくれたんですよ」
 良太はまた工藤の手からペンを取り返す。
「藤堂が、皆にそれを配ったのか?」
「それぞれ、いろんなものをくれたんです。いいじゃないですか、ペンの一本くらいもらったって」
 工藤は益々訝し気に、良太を見つめる。
 ったく、これだからな。
 どんなに体を重ねても、嫉妬の根は絶えないらしい。
 その時、料理が運ばれてきた。
「わ、美味い、このかぶら蒸し」
 大口を開けて健啖ぶりを発揮している良太にそれだけ嵌っているらしい自分を、工藤はせせら笑う。
 だが、工藤は良太の持っているペンが『ダンヒル』であったことに、藤堂がちょっとだけ意味を込めた、なんてことは、考えもしなかったのだった。

 


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